クマのプーさん 〜100エーカーの森に還る〜
わけもわからず惹かれる本は、あなたがあなたに戻れる場所を知っているのかもれない。
『クマのプーさん』の挿絵を、イギリスに行くずっと前から部屋に飾っていました。
その頃の私は、イギリスに行ってみたいと思っていたわけでもないし、プーさんが大好きだと思っていたわけでもありません。けれど、なぜかプーさんの挿絵には、理屈を超えて惹かれていたのです。
それから数年後。
私は縁あって、イギリスの深い森の中に立っていました。
足元にはドロドロのぬかるみ、見上げれば圧倒されるような木漏れ日。
五感をフルに使って森の呼吸を感じているうちに、ふと気づいたのです。
「私はここを知っている。ずっと前から、ここへ還ってきたかったんだ」と。
ずっと部屋に飾っていたあの絵は、未来の私が体験する「魂の故郷」を教えてくれていた予報図だったのかもしれません。
イギリスの森を歩く。
「正解」のない歩き方
霜柱をザグザク踏みしめる振動、森の中に響くノーリードで自由に走り回る犬たちの息遣い、綺麗な鳥に誘われるようについていくと出会える美しい空間。雨粒を纏った芸術的な蜘蛛の巣に一人感動し涙したり……。効率を求める日常では「無駄」とされることかもしれません。 でも、そうやって五感をフルに使って世界と響き合っているとき、私という楽器の弦は、一番やわらかく、心地よく緩んでいました。
「圧倒される」という癒やし
数歩進むたびに、あまりの木漏れ日の美しさに立ち止まり、圧倒されてしまう。
そうして「世界」に圧倒されているとき、私の小さなエゴは消えて、ただ宇宙の大きなリズムの中に溶け込んでいくような感覚がありました。
プーさんが100エーカーの森で教えてくれる「何もしない」という哲学も、きっとこの感覚に近いのだと思うのです。
もし今、あなたの心の弦が少し張り詰めているなら、一緒に目的のない森を歩いてみませんか。
【今回ご紹介した本】
『クマのプーさん Anniversary Edition』
著者:A.A.ミルン
絵 :E.H.シェパード
訳:石井桃子
出版社:岩波書店
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